2017 04 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. »  2017 06

IF STORY2 姉として恋人として

 【26//2017】

前々からリクエストが来ていたIF STORY第2段です。
ギンガとチンクが百合百合します。




薄暗い地下室に閃光と爆音が木霊する。
「くっ・・・」
今しがた破壊の爪痕が刻まれたホールで彼女、ギンガ・ナカジマは膝を屈し、苦悶の表情を浮かべてきた。
ギンガの眼前には彼女と相対するように立つ三人の人影がある。。
その身体を青と紫のボディスーツに包んだ少女達・・・。
時空犯罪者ジェイル・スカリエッティの生み出した人工の生命、戦闘機人『ナンバーズ』だ。
第一世界ミッドチルダに置かれた時空管理局の地上本部、そこが襲撃を受けた時、局の捜査官であるギンガは地下発電設備を守る為に地下に下り、戦闘機人と遭遇した。
最初に遭遇した戦闘機人、銀髪で首元のプレートにⅤと刻印された小柄な眼帯の少女との戦闘はほぼ互角だった。
しかし更に増援として二人の戦闘機人が現れた事でギンガは劣勢に立たされた。
「うおりゃぁっ!」
「くぅ・・・!」
新たに現れた戦闘機人、赤いショートヘアの―妹のスバルによく似た―少女、ナンバーⅨと、後ろ髪をアップにした少女、ナンバーⅩⅠの二人組みは息のあった連携でギンガの動きを封じる。
そして防戦一方になったギンガに最初に交戦した少女、ナンバーⅤが投げナイフを投擲。
先程までの戦闘から彼女のナイフが命中と同時に爆発する事を知っていたギンガはガードではなく回避を選択する。
しかし・・・。
「させないっス!」
ナンバーⅩⅠが手にした大型の盾のような武装から放たれたエネルギー弾がギンガの足元に着弾する。
弾丸自体はギンガにダメージを与えはしなかったが、その瞬間は本能的に体を硬直させてしまう。
(まずいっ!)
そう思ったときには既に遅く、放たれたナイフはギンガの左腕、その肘の辺りに命中し・・・。
「しまっ・・・!」
閃光と共に爆発した。
朦朧とする意識の中でギンガは自分が爆発で吹き飛ばされたのだと気づいた。
(左腕の感覚が無い・・・)
ギンガはそう思った後、ゼロ距離で爆発を受けたのを思い出す。
霞む視界の中で戦闘機人達が自分に近づいてくるのが見える。
身体は動かない、抵抗は不可能だろう・・・。
(私、どうなっちゃうんだろう・・・)
薄れ、明瞭な思考が出来ないギンガはどこか他人事のように思う。
沈み行く意識の中、ギンガは最後に妹の声を聞いたような気がした。



暗い、暗い闇の中。
しかし不思議と恐怖は感じない。
暖かく、包まれるような感触。
まるで母に抱かれているような・・・。
「・・・んっ」
意識を取り戻したギンガの視界に入ってきたのは知らない場所だった。
黄色い照明に照らされた研究施設のような部屋。
何やら視界が揺らめく様に感じ、不思議に思った所でギンガは自分が液体に満たされたシリンダーの中に入れられているのだと気づいた。
(これって、生体ポッド・・・)
自分が入れられているのが事件の捜査で何度も目にした人造魔道師、戦闘機人等を培養する為の生態ポッドの中だと分かった瞬間、ギンガは緊張で身をこわばらせる。
管理局でこの手の生態ポッドは取り扱っていない、ならば・・・。
(ここは敵の、ジェイル・スカリエッティの研究施設・・・)
次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ・・・。
近年名が知れだしたマッドサイエンティストにして自分が交戦した戦闘機人達の創造主だ。
そしてその狂科学者が何ゆえ自分を狙うのかギンガには心当たりがあった。
彼女と彼女の妹、スバル・ナカジマも戦闘機人なのである。
誰が二人を生み出したのかはわからない。救出してくれた母、管理局のストライカーだったクイント・ナカジマの遺伝子から生み出されたタイプ・ゼロシリーズ、その一号機と二号機、ファーストとセカンドが二人の本来の名前だった。
クイントに助け出されてからギンガとスバルと言う名を与えられ、今まで人として生きてきたナカジマ姉妹にとって戦闘機人とそれを生み出すスカリエッティは因縁の存在なのだ。
同時にスカリエッティも二人に興味を持っていた。
自分以外が生み出し、そして兵器としてではなく人として生きてきた戦闘機人、それは彼の知的好奇心を激しく刺激した。
そしてその顛末は知っての通り、ギンガはナンバーズと交戦し敗北、拉致されここに連れて来られてしまった。
(スカリエッティが私を使って何をしようとしているのかは分からない。けれどとにかく急いで脱出しないと・・・)
そう思いギンガがどうにかしてポッドから出ようとしていると隣から声が聞こえた。
「目が覚めたようだな・・・」
その聞き覚えのある声に振り向くとギンガの入れられたポッドの隣、同様の生態ポッドの中に銀髪の少女が入っていた。
「あなたは・・・!」
その姿にギンガは見覚えがあった。
最初に遭遇した隻眼の戦闘機人である。
「ナンバーズのナンバーⅤ、チンクだ。タイプゼロ・ファースト・・・と呼ぶ訳にはいかないな、なんと呼べばいい?」
外見不相応な事には変わりないが戦闘時に放っていた覇気は感じられず、落ち着きのある・・・どこか大人びた印象にギンガは戸惑いながら応えた。
「えっと、それじゃあギンガと・・・」
「そうか、傷の具合はどうだギンガ?」
そう言われてギンガは思い出したかのように左腕を見た。
チンクとの戦闘で彼女の投げナイフ・・・スティンガーをくらい、更にその爆発で欠損したと思っていた左腕がそこにはあった。
「幻痛は無いか?暫定的に付けられた義手だが日常生活には支障が無いはずだが・・・」
「え?あ、あぁ、ありがとう。問題ないわ」
ギンガが応えるとチンクはただ一言、「そうか・・・」と呟き黙り込んでしまう。
「・・・」
「・・・・・・」
俯いたままのチンクとそれに困惑するギンガ。
沈黙が続き居たたまれなくなったギンガが口を開こうとした時、チンクが沈黙を破った。
「あの・・・」
「・・・すまなかった」
彼女から放たれた言葉は謝罪。
「えっ・・・?」
それはギンガにとって予想外の言葉だった。
「私達ナンバーズはドクターに生み出された兵器だ、故にあの人に従う事に異論は無い。だがそれがギンガを傷つけていい理由にはならないからな・・・」
彼女の言葉には紛れも無く悔恨が感じられた。
「・・・貴女は、スカリエッティのやっていることに何も感じないの?」
ギンガの質問にチンクは暫し考えてから答えた。
「確かに、ドクターのやり方に思うものが無いといえば?になる」
「それじゃあ、どうして・・・」
するとチンクは強い意志のこもった眼差しでギンガを見つめながら言った。
「無論、妹達の為だ」
妹達、彼女より後発のナンバーズ達が安心して暮らせるようにする為にはスカリエッティの計画を成功させなければならない。
それが自分の戦う理由なのだとチンクは言った。
「そんな・・・管理局に自首すれば悪いようには・・・」
ギンガがそう説得するとチンクはただ首を横に振った。
「本来ならそれも一つの手なのだろう。だが状況がそれを許してはくれまい」
「・・・どういうこと?」
「そうだな、ギンガにも知る権利はあるだろう。私たちと同じ、造られた者として・・・」
そう言ってチンクは自身が知っている情報をギンガに話した。
時空管理局のトップ、最高評議会とスカリエッティの癒着。
スカリエッティとの司法取引と言う形での戦闘機人を用いた地上本部の戦力強化計画。
「しかしそれらはドクターが反旗を翻したせいでご破算となってしまった。最高評議会は私達を許しはしないだろう」
「・・・・・・」
ギンガは事件の真相、その闇の深さに言葉が出なかった。
「恐らく捕らえられればドクターも我々も生きてはいられない。もはや戦う以外に道はないんだ」
そう説明するチンクの表情からは忸怩たる思いが感じられた。
そんな彼女にギンガは不思議と共感を持てた。
(そっか、この子も私と同じなんだ・・・)
彼女、チンクも姉として、守る者として強くあろうとしているのだ。
そしてギンガは思った、彼女を、チンクの事をもっと知りたいと。
そう思ったとき自分が捕らわれの身である事をギンガは思い出した。
「そういえば、スカリエッティは私をどうするつもりなの?」
質問するギンガにチンクは変わらず穏やかに答えた。
「安心してくれ。ドクターも我々もギンガ達に危害を加える積もりは無い」
「そう・・・いえ、待って」
チンク説明に安心しかけていたギンガだったが説明の一部に気になる部分があった。
彼女はギンガ『達』と言った。
達ということは自分以外にもあの戦闘で拉致された人物がいるという事だ。
「私の他に、誰かここに来てるの?」
ギンガがそう質問すると、チンクは何かを思い出したようだ。
「そうか、知らなかったんだな。ギンガが気絶している間に妹のゼロ・セカンドと戦闘になってな、何とか勝ったものの私もこの有様だ」
「っ!?」
ギンガは全身から血の気が引いていくのを感じた。
チンクを始めナンバーズ達ギンガのことをタイプゼロと読んでいた。
それは彼女達、ナカジマ姉妹の戦闘機人としての開発コード名だ。
ギンガがタイプゼロ・ファースト、そしてセカンドは・・・。
「あの子はっ、スバルは無事なのっ!?」
ギンガはシリンダにぶつかりそうな勢いでチンクに尋ねた。
「安心してくれ、彼女は無事だ。私と一緒にこの部屋で治療を始めたのだが、見当たらないという事はどうやら先に完治したようだな」
「・・・本当に?」
「ああ、ドクターは狂人かもしれないが悪人ではない。彼女は無事だ、信じて欲しい」
チンクの言葉は邪な意志のない真摯なものでギンガはそれを信じる事にした。
「分かったわ・・・」
「すまないな、今妹に連絡して彼女の今所を聞いてみる」
そう言ってチンクは通信を妹の一人、ナンバーⅩ、ディエチに繋げる。
「ディエチ、聞こえるか?」
『ッ!チンク姉、目が覚めたの?』
モニターに移るチンクの妹はどこか慌てた様子で応える。
「ああ、ギンガ・・・タイプゼロ・ファーストもな。彼女の妹の所在が知りたいが分かるか?」
『それが大変な事になってるんだ!説明は後で、今行くから・・・』
冷静さを欠いているディエチにチンクは落ち着くように諭す。
「落ち着けディエチ、せめて何が起こったのかだけでも説明してくれ」
『それが・・・ノーヴェとゼロ・セカンドが・・・』
「・・・えっ?」
ディエチの口から出て来た名前にギンガは再度凍りついた。



「何故止めなかったんだ・・・!」
「ゴメン、気が付いた時にはもう始まってて・・・」
「とにかく、急ぐっスよ!」
ディエチとナンバーⅩⅠ、ウェンディにそれぞれ支えられながらギンガとチンクは研究所の通路を進む。
ディエチの説明を要約すると以下のようになる。
数日前に意識が覚醒したタイプゼロ・セカンド、スバルはスカリエッティと対談。
姉のギンガ共々無傷での解放を条件に彼女自身のデータ収集に協力する事を確約した。
ナンバーズの監視つきでの施設内での行動を許されるもナンバーⅨ、ノーヴェと行動中に口論になる。
原因は不明だが口論はエスカレートし、ついには訓練場で模擬戦まがいの決闘に発展してしまった。
「まずいぞ、ノーヴェは姉妹の中でもトーレに継ぐ近接戦闘の実力者だ。病み上がりの身のセカンドでは・・・」
チンクがそこまで言いかけたところで訓練場の方から轟音が鳴り響いた。
「な、何スか?!」
「まさか、ノーヴェがっ!?」
「・・・スバルっ!」
未だ思うように動かぬ体に鞭打ちながら歩みを速めるギンガ。
通路の向こうに訓練場が見えてきたとき彼女達の目に飛び込んできたのは予想外の光景だった。
「えっ?」
「うそ・・・」
そこでは先程ディエチが報告したとおりスバルと赤いショートヘアのスバルによく似た戦闘機人、ノーヴェが闘っていた。
否、眼前の光景を詳細に説明するならばその言い方には語弊があった。
訓練場の端、壁際で立つのがやっとの状態のノーヴェをスバルが一方的に殴打していた。
壁には何かが激突した後があることから恐らくスバルの打撃で吹き飛ばされたノーヴェが激突したのだろう。
その窪みの深さからして相当な威力で吹き飛ばされた事が窺える。
そんなフラフラの状態のノーヴェがまともに防御などできるわけが無く、彼女はスバルの豪雨の様に猛烈な拳打を受け、ついに仰向けに倒れこんだ。
「ふざけないで・・・」
倒れたノーヴェに馬乗りになりながらスバルが呟く。
決して大きくなかったが、強い、殺意とも取れる猛烈な怒気のこもった彼女の声はギンガ達の耳にはっきり聞こえた。
「ギン姉をあんなにした奴がふざけたこと言うなっ!!」
先の地上本部襲撃時のに見せた憤怒の表情のまま、スバルは叫び振り上げた拳を・・・。
「・・・っ!ダメェ!!」
振り下ろした。
一際多きな轟音が響き、訓練場が激震に揺れる。
振り下ろされたスバルの鉄槌は、しかしノーヴェに打ち込まれることは無かった。
「スバル・・・」
彼女の拳はノーヴェの顔の直ぐ横に落ち、小さなクレーターを穿っていた。
「なん、で・・・?」
困惑した声でノーヴェが問う。
「わかんない、わかんないよ・・・!」
そう答えるスバルの声は震えていた。
「でも嫌なんだっ、ノーヴェと戦いたくない。ノーヴェを、傷付けたくないよぉ・・・」
怒りや悲しみ、あらゆる負の感情がない交ぜになり自分でもコントロールできないのだろう、スバルの瞳からは大粒の涙がボロボロと零れていた。
当然であろう、スバルは本来戦いに向いていない優しい少女だ。
それが目の前で姉の惨状を見せ付けられ、次に目が覚めたら敵地の真っ只中、救いを求める事もできず未だ目覚めぬ姉の為に敵に強力を強いられる。
彼女が感じる不安やストレスは生半可なものではなく、最早スバルの心は何かの拍子にぽっきり折れてしまいそうなほど消耗していた。
それが今、爆発したのだろう。
しかし彼女は最後の最後で踏みとどまって見せた。
母から授かったシューティング・アーツの技を、誰かを救おうと誓いを立てた拳を、暴力を振るうための道具に墜す事無く守り抜いて見せたのだ。
そんな弱りきった、しかしとても強い妹にギンガは必死に駆け寄る。
「スバルっ!」
「ギン、姉・・・?」
ギンガの姿を目にしたスバルは一瞬呆けた表情をするが、目の前に居るのが紛れも無く自分の姉だと分かった瞬間、彼女の目から再び大量の涙が零れだす。
「ギン姉ぇぇっっ!!」
ぶつかる様にギンガに抱きつくスバル。
思わず倒れかけたギンガだが、付き添っていたディエチに支えられて何とかスバルを受け止めた。
「スバル・・・!大丈夫だった?」
「うん・・・っ!ギン姉も無事でよかった・・・」
泣きじゃくるスバルを落ち着かせているギンガの隣でチンクがノーヴェに何かを諭している。
それが終わるとノーヴェはシュンとした佇まいでギンガ達の前にやってきた。
「ゴメン、何にも知らないくせにあんな事言って・・・」
スバルは涙を拭くと立ち上がり、ノーヴェと相対する。
「グスッ・・・ううん、私こそゴメンね、チンクの事、ノーヴェのお姉ちゃんを傷つけて・・・」
そして彼女の口から出たのは非難ではなく謝罪の言葉だった。
それを聞いたノーヴェは先程のスバルのように大粒の涙を零しながらスバルに抱きついた。
「わっ!?」
「・・・ゴメンなさい、いっぱい、ヒドイことして、ゴメンなさい・・・」
胸の中で泣くノーヴェをスバルは優しく抱きしめる。
「ノーヴェ・・・。うん、大丈夫・・・大丈夫だよ。私もギン姉も怒ってなんて無いから・・・」
そんなスバルの姿にギンガは何故だか親近感を覚えた。
彼女の愛しむような微笑に覚えがある。
(でも、どこで・・・?)
そこでギンガは直ぐ隣にいるチンクを見てハッと思い出した。
それはチンクが妹の事を話すときに見せる顔、自分がスバルに見せる姉としての顔だった。
これまで姉としてずっと守ってきたスバル、そんな彼女の成長した姿を見たギンガが感じたのは誇らしさ喪失感だった。
まるでスバルが離れていくような寂しさ、それがギンガの胸中に芽生えている事に気づいた。
「どうしたんだ?ギンガ?」
チンクがギンガに問いかける。
どうやら今の感情が顔に出てしまったようだ。
「ううん・・・スバルも成長したんだなって思ってね」
それを聞いたチンクは納得したように頷きながら言う。
「成程な、人は成長していくものだからな。何時かは親元をから巣立つ時が来るのだろう。私はよく分からんがな・・・」
「え?」
ギンガがチンクを見ると彼女は悲しそうな表情で続けた。
「私達ナンバーズは今の外見まで成長してから生み出される。私とて姉ぶってはいるがそう長く生きてはいない。それに上の姉達は任務の達成こそを優先しているからな。教育こそすれど姉として接された記憶は無いに等しい・・・」
それからチンクは一呼吸置いてから呟いた。
「少し、ギンガ達が羨ましいな・・・」
母や姉を知らず生きてきたチンクにとって、母クイントから愛情を受けたギンガや母と姉に愛されて育ったスバルは眩しすぎる存在だった。
「チンク・・・」
この瞬間、ギンガの中でチンクに対する感情に変化が起こった。
自分に似た、だが実は全く違った戦闘機人の少女、チンク。
もっと彼女を知りたい、もっと彼女と接したい、もっと、もっと彼女と・・・。
チンクに抱いていた感情が興味から違う何かに変わり始めている事に、そしてそれが何なのか理解できない事にギンガは戸惑うばかりだった。



「すまない、サイズは合うと思うのだが・・・」
「ええ、ありがとう」
チンクの謝罪にギンガが力なく答える。
彼女達がいるのは研究所の集団洗浄室、一般で言うところの浴場だ。
訓練場での一件が解決した後ギンガは遅れてやってきたジェイル・スカリエッティと対面。
何度かの質疑応答と交渉の結果スバルと同様の条件・・・早期解放とその間自分とスバルに危害を加えない代わりに自身のデータ収集に協力すると言う条件で交渉は成立した。
その後ギンガはチンクに連れられてここ、集団洗浄室にやってきた。
生体ポッドの中にいた時の培養液に濡れた身体を熱いシャワーで洗い流し漸く一息つけたところで新たな問題が発生した。
ギンガの衣服である。
彼女が本来着ていた時空管理局の制服はチンクと戦闘したときに重症を負ったギンガと同様に大きく損傷し、生体ポッドに入れられる際に処分されてしまった。
着る物がなくなってしまったギンガの代わりの服をどうするか話し合い、最初に挙がったのがナンバーⅠ、ウーノの服だった。
理由としてはギンガと体格的に近い事、そして他のナンバーズ達と違い秘書然とした 言い方を変えれば最も普通の服である事等が挙げられギンガ本人もこの案を推していた。
しかし予備の服がクァットロの手違いで全て回収され、現在クリーニング中だと本人の口から説明された事で本案件は廃案となった。
そして残ったのが第2案、他のナンバーズと同様の戦闘服を着るという案である。
ギンガはバリアジャケットを展開してはどうかと提案したが、研究所にAMFが展開されている事や常時展開し続けていては病み上がりのギンガの体に良くないという理由で却下されてしまった。
そして今に至る。
「本当に、これを着るの・・・?」
洗浄室に隣接した更衣室で、そう呟きながらギンガはタオルと一緒に渡されたスーツを広げる。
見た目こそ極薄のラバースーツだがこの薄さからは考えられないほどの強度と耐久性を備えており、その性能は実際に戦ったギンガが身をもって実証している。
それ自体は問題ではない、ギンガが気にしているのはこのスーツのデザインである。
全身にピッチリと張り付きボディラインを浮き彫りにする、ある意味全身タイツのようなデザイン。
これまでに会ったナンバーズ達の女性らしさを強調するようなスーツ姿には同性のギンガですらドキリとするほど魅惑的な美しさだった。
「うぅ・・・」
だからと言って自分が着たいかと聞かれたらNOだ。
はっきり言ってしまえば恥ずかしい。
しかしこのスーツ以外に着るものが無い以上これを着るしか無い。
(はぁ・・・まぁいいか。知ってる誰かに見られるわけでもないし・・・)
諦めの境地に至ったギンガはスーツの開口部を開いた。
パチン、ギュギュ・・・。
ギンガの足が腰が、お腹がラバースーツに飲み込まれていく。
左、右の順にスーツに袖を通し両腕も包まれる。
皮膜を引き上げ、形のいい二つの乳房もラバーに覆われる。
首から下が覆われ、最後にインナースーツを引っ張り顎のラインにフェイスガードで固定するとギンガの体は完全にラバーに包まれた。
「どうだギンガ?どこか以上は無いか?」
普段から着慣れているせいか、既に着替え終わったチンクがギンガに声をかけてくる。
「うん、特に問題はなさそうだけれど。何だろう、不思議な感じ・・・」
プロテクターを装着しながらギンガは答えた。
スーツは体に密着するとその感触が消え、まるで自分が裸でいる様に外気を感じる。
それでいながらギンガは安心感を感じていた。
まるで全身を優しく抱きしめられているような、守られているような、そんな感覚だ。
「安心してくれ、それはスーツとギンガの身体とのリンクが正常な証だ。スーツの感触が消えたんじゃなくてスーツそのものがギンガの皮膚の様に感覚を伝えてきているんだ」
「そう、なんだ・・・」
チンクから説明を受けていたギンガはふと、更衣室に備え付けられている姿見に目を向け、目を見開いた。
「えっ・・・」
そこには全身をスーツに包まれたギンガの身体が写っていた。
スーツは中の空気が完全に抜け、ラバーの皮膜がギンガの身体にピッチリと張り付き彼女のボディラインを鮮明にしている。
すらりとした手足、キュッと引き締まったおなかと逆に存在を主張するかのように突き出た乳房とお尻・・・。
スーツの耐G機能が働き、全身を締め付けられるおかげで鏡に映るギンガの身体は女性らしさが普段よりもずっと強調されていた。
(キレイ・・・それにとってもイヤラシイ格好・・・)
美しい曲線美を描く身体を艶かしい光沢を放つラバースーツに閉じ込めたギンガの姿からは非常に淫靡な美しさを感じられた。
顔を赤らめながら鏡に見惚れていると彼女の直ぐ隣にチンクがやってきた。
「そ、その・・・似合ってるぞ、ギンガ・・・」
ギンガと同様に赤面しながら賛辞を述べるチンク。
「あ、ありがとう・・・」
感謝の言葉を返すギンガは再び鏡に目を向ける。
鏡の中ではスーツ姿の自分とチンクが並び立っている。
(そういえば私、チンクと同じスーツを着てるんだ。チンクと、同じ格好・・・)
そう思った途端、ギンガは自身の心臓が「ドクンっ」と高鳴った。
「っ・・・!?」
心臓の鼓動が早くなり身体が熱くなる。
胸の内から高揚感が湧き上がり、どんどん大きくなっていく。
「ギンガ?」
それに戸惑うギンガを不思議に思ったチンクが声をかけた。
「えっ?あ・・・な、何でもないわ。大丈・・・」
チンクに振り返りながらそう言おうとしたギンガだったが途中で躓き、よろめく。
「あっ・・・」
歩けるまでに回復したとはいえ、ついさっきまでずっと眠ったままだったのだ。
躓いたギンガは足に力が入らず、そのままチンクの方へ倒れこんでしまった。
「あぶな・・・っ」
「ギンガッ・・・!」
ドサリと言う音が更衣室に響く。
倒れたギンガは何とか身体を支え、チンクの上に落下するのは防げた。
「あ・・・」
「ギン、ガ・・・・」
その結果、ギンガはチンクを押し倒す形となり、現在彼女はチンクのに覆いかぶさっている。
「・・・」
「・・・・・・」
二人とも目を見開き、顔を真っ赤にしながら沈黙する。
ギンガの前髪が下に垂れ、チンクの顔をくすぐる。
僅かに触れ合った二人の身体が擦れ合い、その感触がラバースーツ越しに伝わってくる。
10秒経ち、20秒経ち、1分が経過したあたりで二人はやっと再起動を果たす。
「ゴ、ゴメンなさい。怪我はない?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だ・・・」
慌ててチンクから離れるギンガ。
チンクも起き上がると、二人間になんとも言えない空気が漂いだした。
ギンガは心を落ち着かせようと胸に手を当てる。
未だドキドキと激しく脈打つ心臓の鼓動が手に伝わってきた。
(もう、何やってるのよ私・・・、転んで押し倒して、それでドギマギするなんて・・・まるで昔読んだ恋愛小説じゃない・・・)
チンクの様子が気になりこっそり視線を向ければ向こうも同様にチラチラと様子を窺っている。
「・・・そ、そうだ。ドクターへの報告がまだ残っていたな、すまないが先に行くぞ。何かあったら私でも他の姉妹でもいい、呼んでくれ」
「え、ええ。ありがとう、そうするわ」
それを聞くとチンクは逃げるように更衣室を後にした。
同時に先程まで漂っていた気恥ずかしい雰囲気が霧散し、ギンガは安堵と羞恥心からため息を零した。
「はぁぁ・・・」
チンクの様子から嫌われては以内と思う。
それでも今後顔を合わせづらくなったのは事実だ。
(もっと、彼女と色々話したかったな・・・)
そう思いながらは俯く。
彼女の視界には首周りのプロテクター、そのプレートに刻印されたⅩⅢの数字が見える。
この数字は本来ナンバーズの姉妹達に割り振られた物だ。
今着てるスーツはギンガの為に急遽作られたスーツでその為他のナンバーズのロットではなく新規に13番目のロットで製造されたのだ。
自分はナンバーズではないし、なるつもりも無いとギンガは思っている。
(でも・・・)
彼女と、チンクと姉妹になれるのならそれも悪く無い、ギンガはそう思うのだった。



その日から数日が経った。
やはりチンクと顔を合わせづらいギンガは主にスバルと行動を共にしていた。
そのスバルだが、あの決闘騒ぎの一件で和解して以来ノーヴェと一緒にいる時間が多くなった。
ノーヴェに以前交戦した時の剣呑な雰囲気は無く、スバルと接する彼女はまるで本当の姉妹のように見えた。
(ううん、本当の姉妹なのかもしれない・・・)
ノーヴェの遺伝子モデルになった人物の名はクイント・ナカジマ。
そう、自分やスバルの遺伝子モデルであり、命を落とすまで自分達を育ててくれた母、クイントの事だ。
それを知ってからは二人はより親密に接するようになり、周囲はそれを微笑ましく見守っている。
そのことに気づいていないのは当の本人達のみだ。
「いや、変って訳じゃないんだけど。その・・・スバルもこっちを着てみないかなって、ギンガみたいに・・・」
現在二人が話しているのはスバルの衣服の事だ。
幸いな事にスバルが来ていた制服は損傷が少なく、僅かな補修で着られるようになったため、彼女はそのまま制服でいた。
それに対してノーヴェはギンガのようにナンバーズスーツを着ないかと勧めているのだ。
ノーヴェにそう提案されたスバルはギンガの方を見る。
同性で妹といえどスーツに包まれた今の姿をまじまじと見つめられるのは流石に恥じらいを覚えた。
「その、そんなにジロジロ見ないで・・・」
そう言ってギンガが胸や大切な所を隠したところでスバルは慌てて姉から視線を逸らす。
「あぁ、ゴメン、それでそのスーツだっけ、私も着たほうがいいのかな?」
「いや、その・・・無理にって訳じゃないんだ。そのさ、もうすぐお別れだし・・・出切ればもっとスバルと色々思い出作りたいから・・・」
ノーヴェのその言葉にスバルとギンガは思い出した。
自分達が彼女達に捕らわれている事を、そして間もなく解放されることを・・・。
ギンガとスバルのデータは二人の協力もあって既に収集が終わった。
近いうちにスカリエッティとナンバーズ達は研究所の近くに眠る古代ベルカの巨大次元航行艦、『聖王のゆりかご』で管理局の手の届かぬ所に旅立つつもりなのだ。
ギンガ達はその時に解放され彼女達ナンバーズとは今生の別れとなるだろう。
(別れる?チンクと・・・?)
それを考えた途端、ギンガは胸が苦しくなるのを感じた。
この数日、碌に会話もできなかったが何度か彼女と会う機会はあった。
その度に、彼女の顔を見る度に、言葉を交わす度に、ギンガの中でチンクの存在は大きくなっていった。
(チンク・・・)
しかし、分からない。
何故自分が彼女をココまで強く意識しているのか、ギンガには分からなかった。
そうしてギンガが自問自答している間もスバルとノーヴェの会話は続いていた。
スバルが自分もスーツを着てみようといいかけたとき、スカリエッティからナンバーズに召集がかかる。
説明によるとゆりかごが起動する前に障害となる管理局の魔道砲『アインヘリヤル』を襲撃、破壊するとの事だ。
「ゴメン、そう言う訳だからちょっと行って来る。また後でなっ」
「ノーヴェ・・・」
そう言って去っていくノーヴェの背中をスバルは沈痛な面持ちで見つめる。
ギンガも同様にノーヴェの身を案じるが、それでも真っ先に考えてしまうのはチンクの事だった。
(彼女も、出撃するのかしら・・・)
未だ全快には至らぬナンバーズの五女、彼女が出撃する公算は低い。
しかしもし出撃することになったら、万が一彼女の身に何かあったら・・・。
「・・・っ!」
ギンガはなるべくそれを考えないようにしながらひたすら胸の痛みに耐えるのであった。



幸いな事にチンクが出撃する事は無かった。
未だスバルとの戦いで負った怪我が完治していないと言う理由で研究所に待機となった。
そんな彼女は現在ギンガとともに怪我の経過を見るためにメディカルルームにいた。
しかし部屋の雰囲気はとても重苦しい物だった。
二人の視線が注がれているのはナンバーズ達の戦況を写している投影モニター。
ナンバーズによるアインヘリヤル襲撃は当初は順調に進んでいた。
突然の奇襲に加え魔法が使えない高濃度AMF下での戦闘という状況で管理局の守備隊はあっけなく突破され各地に点在する3基のアインヘリヤルの内2基を破壊する事に成功した。
しかし残った3号機を守る守備隊を撃破したところで戦況が変化した。
地上本部から派遣された増援部隊・・・AMF下でナンバーズと戦う事を目的として設立された対戦闘機人部隊、彼らの銃火器による攻撃の前に3号機襲撃に向かったナンバーズ達は苦境に立たされていた。
「ノーヴェ、ウェンディ、みんな・・・っ!」
「チンク・・・」
メディカルルームにチンクの悲愴に満ちた声が響く。
彼女達はも善戦してはいるが元より数の上で圧倒されている上にこれまで対魔道師戦闘に重点を置いていた彼女達にとって質量兵器を運用する部隊の出現は想定外・・・。
一機、また一機と随行していたガジェットドローンを破壊されながら包囲網は狭まっていった。
「・・・・・・っ!」
妹達の近くに銃弾が当る光景が写った途端、チンクはメディカルルームから飛び出した。
「ま、待ってチンク!何処へ行くのっ!?」
慌ててギンガも後を追い、扉を出たところで彼女を捕まえた。
「・・・妹達を助けに行く」
「ダメよっ!そんな体で行ったら・・・」
「だが私が行かなければ妹達が・・・!」
妹を助けに行くと逸るチンクとそれを引き止めるギンガ。
二人が行く、行かせないと言い合っているふいに横から声がかかった。
「ギン姉?」
声をかけてきたのがスバルだと分かったギンガはチンクを説得するのに協力するよう頼むべく彼女に振り向いた。
「スバル、いいとこ、ろ・・・」
そこまで言いかけたところでギンガはスバルの姿を見て言葉を失った。
今目の前に居るスバルが来ているのは管理局の制服でも純白のバリアジャケットですら無かった。
頭の左右に取り付けられたインターフェイス。
肩や腰に装着されたプロテクター。
そして全身をピッチリと覆いつくした青と紫のラバースーツ・・・。
そう、彼女が着ているのはナンバーズが、そして今ギンガが来ているのと同じナンバーズ用戦闘服だった。
首周りのプレートに刻印されている数字はⅨ、恐らくノーヴェの予備のスーツだろう。
「スバル、その格好は・・・」
スバルは一瞬迷うものの、意を決してギンガに言った。
「ギン姉・・・私、行くよ」
「行くって、まさか・・・っ!」
驚きの声を上げるギンガにスバルは一度頷き、続けた。
「うん。ノーヴェ達を助けに行く・・・」
スバルの返答にギンガは取り乱さずにはいられなかった。
「本気っ!?自分が何を言っているのか分っているのっ!!?」
ノーヴェ達を助けに行くということは管理局部隊を攻撃する・・・裏切るという事だ。
そうなればスバルは犯罪者としてナンバーズ達と共に追われる身になる。
もうあの日のあたる暖かい世界に戻る事はできないのだ。
「たとえそうなっても、私は行くよ・・・!」
ギンガがいくら諭してもスバルの決意は寸分も揺らがない。
「どうして、どうしてそんな・・・」
どうしてそこまでできるのか?自分の未来を捨ててまで敵だった彼女達を救おうとするのか?
困惑する姉に対し、スバルは呟くように答えた。
「・・・ら」
「えっ?」
「好きだから、ノーヴェの事が好きだから・・・!だらか行くんだ、助けにっ!」
予想外の答えにポカンとするギンガ達にの横をスバルは通り過ぎる。
「心配してくれてありがとうギン姉。でもゴメン、私はノーヴェ達と一緒に行くよ」
スバルは一度立ち止まり、ギンガに背を向けたままそう言うと転送ポートへ向かって走りだした。
「・・・スバル」
振り向き小さくなっていく妹の背中を見つめながらギンガはつぶやく。
スバルの言っていた「好き」とは友情や姉妹愛的なそれではなく言葉どおりの好きなのだろう。
最近の二人が仲睦まじいとは思っていたが、まさか恋愛感情に発展しているとは思いもしなかった。
だが驚きと同時にギンガは何かが胸にストンと落ちた気分になった。
「そっか、そうだったんだ・・・」
「ギンガ?」
ギンガは隣にいるチンクを見つめる。
これまでチンクに対して感じていた、抱いていた思い、その正体にギンガはようやく気が付いた。
「チンク、どうしても助けに行くのね?」
「ああ、当然だ。妹を助けるのは姉の義務だ」
チンクの答えにギンガは「そう・・・」と呟く。
「分かったわ、そこまで言うのなら止めないわ」
「・・・ありがとう、ギンガ。スバルの事は・・・」
「ただし・・・」
ギンガはそういうと微笑みながら続けた。
「私も一緒に行くわ」
それを聞いた途端、今度はチンクが先程のギンガの様に猛烈に反対した。
「だ、ダメだっ!ギンガの体は完治していないんだぞ!?」
「あら?それを言ったらチンクだってまだ本調子じゃないでしょ?」
ギンガにそう指摘され、たじろぎながらも、チンクは反対し続ける。
「そ、それにさっきギンガもスバルに言っていたじゃないか!管理局の部隊を攻撃なんてしたらギンガは裏切り者になってしまうんだぞ!?」
チンクの必死の説得にギンガは先程までの笑みを消し、真面目な顔に戻る。
「そうね、そうなってしまえば私はもう管理局には戻れない、仲間や家族の下に帰れなくなってしまう・・・」
「そうだ、だからここで待っていてくれ。スバルは私が連れ戻す・・・!」
ギンガが納得したと思い安堵しながらそう言ったチンクは彼女の次の一言に固まってしまった。
「だから、私も行くわ。あなた達と一緒に・・・」
チンクは暫く硬直した後、ギンガが何を言っているのか理解し、叫んだ。
「な、何を馬鹿なことを言ってるんだ!?私達と行くだなんて・・・正気の沙汰とは思えん・・・!」
それからチンクは説教をするようにギンガに説明する。
管理局に執拗に追われながらの逃避行である事、どんな危険があるか分からない危険な旅である事、何より二度と戻って来れないであろう事・・・」
「そんな目にギンガをあわせられないっ、頼むから聞き分けてくれっ・・・!」
最後は懇願するかのようにチンクは言葉を搾り出す。
それを黙って聞いていたギンガはおもむろに口を開いた。
「チンク、どうしてそこまで敵である私を心配してくれるの?」
ギンガの質問にチンクは歯を食いしばる。
「・・・知らないくせに」
「・・・・・・」
説得を聞き入れてくれないギンガに、ついにチンクの感情が爆発した。
「私の気持ちも知らないくせにっ!私は、私はギンガの事がっ・・・!!」
「好き・・・」
「・・・・・っ!?」
激昂するチンクだったが、ギンガが不意に放ったその一言に凍りついた。
「チンクは私の事が好きだから、大切だから私が傷ついたり辛い思いをしないように反対しているの。違う?」
チンクは反論できなかった、なぜならギンガの言っていることが全て事実だからだ。
地上本部の地下で遭遇したあの日から、チンクはギンガのことを強く意識していた。
自分と同じように姉として、妹を守るために戦う少女。
彼女と戦い、後に言葉を交わしてからその思いは一層強くなった。
「な、何でそれを・・・いや、分かっているのならどうして・・・っ!」
図星を指され、慌てふためきながらも反論しようとするチンクだが、終ぞギンガに勝つことはできなかった。
チンクが最後まで言い終わる前に彼女はギンガに抱きしめられ、止められてしまった。
「分かるわよ・・・私も、あなたと同じ思いだもの」
「えっ・・・?」
ギンガの胸の中で、チンクは驚きとも疑問とも聞こえる声を上げる。
「チンクと会ってからずっと、今もどんどん大きくなっている感情があるの。あの日以来あなたに会うたびに、ううん・・・合えないときもチンクの事を意識しない時は無かった」
チンクは知らず知らずの内にギンガの言葉に聞き入っていた。
「さっきスバル達と話していてね、もうすぐあなたと別れることになるのを思い出した途端とても苦しかった。胸が張り裂けそうな気持ちになったの・・・それで漸く気づいたの。私はあなたに惹かれているんだって、チンクのことを愛しているんだって・・・」
「ギンガ・・・」
ギンガはチンクを解放し、二人の視線が交差する。
「だからお願い、私も一緒に連れて行って・・・」
ギンガの言葉を聞いたチンクは黙ったまま俯く。
「・・・」
「・・・・・・」
ギンガも黙って待っていると、唐突にチンクが呟いた。
「・・・ギンガは、ズルイな」
そう言って顔を上げたチンクは目じりに涙を溜めていた。
「そんな頼まれ方をして、断れるわけが無いじゃないか・・・」
「チンク・・・」
更衣室の事故でそれが決定的になり、以来チンクはギンガの事を考えずにはいられなくなった。
一時の気の迷いだとギンガから距離を置いたが、結果は逆にギンガのことを考えずにはいられなくなってしまった。
彼女達のデータ収集が間もなく終わるとスカリエッティから聞かされたとき、チンクは胸に大穴を穿たれたような虚無感に襲われた。
そこで理解したのだ、自分がギンガを好いていると・・・。
しかし此方に残るほうが彼女にとって幸せだと己の心に言い聞かせ、自分の気持ちを押し殺してきた。
その抑圧されていた想いがギンガの告白を受けて、一気に噴き出した。
「グスッ、変だな・・・嬉しいはずなのに、涙が、止まらない・・・」
ボロボロと涙を流すチンクをギンガはそっと抱きしめた。
そこで限界を迎えたのか、チンクは堰を切ったかのように泣き出した。
「嫌だ・・・嫌なんだっ!ギンガと離れたくないっ!」
泣きじゃくりながら叫ぶように思いを吐き出すチンク。
「好きなんだ・・・ギンガの事が・・・!一緒にいたい。ギンガといっしょに、いたい・・・!」
ギンガの胸で泣きじゃくるチンク、その姿は普段の姉として気丈に振舞う戦闘機人ではなく見た目相応の少女そのものだった。
「安心して、チンク・・・」
チンクを抱く腕に力がこもる。
「私は何処にも行かない。ずっと、あなたと一緒よ・・・」
「ほん、とう・・・?」
なみだでグシャグシャになった顔を上げながらチンクが問う。
「ええ、だって・・・」
そういいながらギンガは首元のプロテクター、そのプレートに刻印された数字をなぞる。
「だって、私はナンバーズのサーティーン。もうあなたの姉妹なんだもの」
「・・・でも、そうしたらもう帰って来れなくなる。それでもいいのか?」
最後まで自分を案じてくれているチンクにギンガは優しく微笑んだ。
「ええ、貴女が私のそばにいる。それだけで十分幸せだもの」
ギンガの答えを聞いたチンクは涙に濡れた顔をゴシゴシと擦る。
「グスッ・・・全く、自分から犯罪者に堕ちるとは・・・物好きもいたものだな」
泣きはらし目元を真っ赤にしながらも、チンクの顔は迷いが消えたような晴れ晴れとした笑顔だった。
「だが、ギンガは私に攫われた身だ。むしろ私が言わねばな。ギンガ、私と一緒に来てくれ・・・」
全てを捨てて逃避行に付き合って欲しいというチンクの無茶な願いを・・・。
「ええ、喜んで」
ギンガは快諾した。
「ありがとう、ギンガ。さて、早速妹達を連れ戻さないとな」
「ええ、そうね。それじゃあ失礼して・・・」
「えっ?ひゃぁっ!?」
突然ギンガはチンクを抱きかかえ、身体を襲う浮遊感にチンクが悲鳴を上げる。
「なっ、何をするんだギンガっ!?」
「フフッ、こうしたほうが早いでしょ?」
「それは、そうだが・・・」
俗に言う「お姫様抱っこ」という体勢で抱かれたチンクはその白い肌を真っ赤にして抗議する。
「それに、チンクは病み上がりなんだから無理な機動は体に障るでしょ?」
「それを言ったらギンガだってそうだろうっ」
チンクの言うとおり、ギンガの体も未だ完治しておらず、戦闘を行える状態ではなかった。
「ええ、だから私は機動に専念する。攻撃はあなたに任せたわよ、チンク」
ギンガの言わんとすることが分かったチンクは不敵に笑いながら頷いた。
「ああ、心得た。私を妹達のところまで運んでくれ、ギンガっ」
「ええっ、任せてっ!」
そう言うとギンガは愛用のデバイス、ブリッツキャリバーを起動し戦場へ向かって走り出した。



ギンガ達が現地に向かった時にはほとんど決着が付いていた。
ノーヴェ達を殺害しようとしていた管理局部隊は戦闘機人としての力を遺憾なく振るうスバルに文字通り蹴散らされ、一人残らず戦闘不能になっていた。
そこへ新たな増援としてやってきたのが陸士108部隊・・・そう、ギンガ達の父、ゲンヤ・ナカジマが指揮する部隊だ。
ゲンヤがスバルに、そしてチンクと共にアインヘリヤルを破壊したギンガに戻ってくるように言う。
しかし二人の意志は既に決まっていた。
最愛の人と旅立つ、それを伝えるとゲンヤは懐から拳銃を取り出し発砲。
弾は明後日の方向に飛んで行きあっという間に拳銃は弾切れになる。
そう、ゲンヤは管理局員としての責務ではなく娘達の未来を選んだのだ。
父の最期の親心に涙しながらギンガとスバルは父に今生の別れを告げ、新たな姉妹達とゆりかごへ帰還を果たした。
それから事態は加速した。
アインヘリヤル襲撃から数日後、晴れてナンバーズの一員となったギンガは姉妹達と共に行動を開始する。
ミッドチルダの首都クラナガンを縦横無尽に駆け抜け管理局をかく乱、ゆりかごが安全圏まで上昇する時間を稼ぐと波が引くように撤退した。
スバルはゆりかご内に待機し、突入してきた管理局部隊を迎撃、その際かつての恩師である高町なのはと再開を果たしたようだ。
幸い、二人が相争う事態は回避され、スバルの説得に応じたなのはは攫われていた娘のヴィヴィオの解放と引き換えにゆりかごから撤退。
急ぎ駆けつけた本局艦隊の攻撃もギリギリの所で次元空間に退避し、彼女達はミッドチルダを、管理世界を後にした。



「ど、どう・・・かな?」
次元空間を航行する聖王のゆりかご、その一室でスバルは顔を赤らめながら聞く。
「うん、とってもキレイ・・・」
そう答えるノーヴェは同様に赤面しながらスバルを見つめていた。
スバルが身に纏うのはノーヴェと同じ青と紫のラバースーツ。
時間的余裕が無かった為、これまでの戦闘でノーヴェの予備のスーツを着ていたスバルだったが、無事ミッドから脱出でき余裕ができたため、改めて彼女専用のスーツが製造されたのだ。
受け取ったスーツを広げたスバルは沸き立つ興奮を抑え切れず、ノーヴェと共に彼女の部屋に行くと早速スーツに着替え始め、今に至る。
全身を余す事無くピッチリとラバーに覆われた青と紫の艶かしい肢体、強固ながら非常に軽量なプロテクター、頭部に取り付けられたインターフェイス。
スバルの姿は何処から見てもナンバーズその物だった。
「ありがとう、ノーヴェ」
金色の瞳の内側で複合式のセンサーアイが小刻みに倍率を調整する。
その視線が向けられているのは彼女の首元のプロテクター、そこに刻印されているのはⅩⅣの数字。
それは紛れも無く彼女がナンバーⅩⅣ、ジェイル・スカリエッティの生み出した戦闘機人、ナンバーズとなった証なのだ。
「わたし、本当にナンバーズに・・・ノーヴェと姉妹になれたんだね・・・」
「うん。私達、本物の姉妹になったんだよ、お姉ちゃん・・・」
「ノーヴェ・・・」
見詰め合う二人の身体が、唇が密着する。
溢れんばかりの幸せを分かち合い、求め合う姉妹達。
それを見つめる瞳があることに気づかぬまま・・・。
「二人が決闘騒ぎを起こしたときは大変だったけれど、漸く一件落着かしらね・・・」
「ああ・・・」
僅かに開かれた扉の隙間から、妹達が絆を深め合う光景を眺めながらギンガが一人ごちると一緒に除いていたチンクが応える。
スバルとノーヴェが手を繋いで部屋に入っていくところを見た二人は姉心と少しばかりの好奇心から中の様子を窺う事にした。
そして彼女達が見たのが先程の光景だ。
身も心もナンバーズとして生まれ変わったスバルがノーヴェと抱き合い、口付けを交わしている様子は流石のギンガ達も赤面せざる終えなかった。
「でもまさかここまで仲がいいなんて、少し意外・・・いいえ、正に予想外だったわね」
「そうだな・・・」
先程からチンクの返事に力が無い。
何かを考えているのか、心、此処にあらずといった様子だ。
「・・・何かあったの?チンク?」
気になって聞いてきたギンガの声にチンクは暫し逡巡した後に口を開いた。
「ギンガ、その・・・頼みがあるんだ。聞いても笑わないでほしい・・・」
「なあに?」
チンクは辺りを見回し他に聞いている者がいないことを確認するとおずおずとギンガに言った。
「その、私も・・・あんな風に甘えていいだろうか?」
「えっ?」
ギンガが声を上げるとチンクは俯き、モジモジしだす。
「恥ずかしながら製造されてから今まで誰かに甘えた事が無いんだ。上の姉達はあの様子だからな」
チンクに言われ、ギンガはナンバーズの年長者達を思い浮かべてみた。
ドクター至上主義のウーノに任務でまともに合えないドゥーエ、武人肌のトーレに謀略家のクァットロ・・・。
一筋縄ではいかない面々で、チンクが甘えられる者は皆無だった。
「確かに・・・」
「これまではずっと我慢してきたんだ。でもノーヴェ達を見ていたらだんだん切なさが湧き上がってくる。もう自分が抑えきれないんだ、湧き上がる衝動で狂ってしまいそうだ・・・」
震えるこえでそう言いながらチンクは顔を上げる。
「突拍子もない事は分かっている。それでも!こんな事頼めるのはギンガだけなんだ。たのむ・・・」
まるで縋る様にギンガに懇願するチンク。
「チンク・・・」
静かに呼びかけるギンガにチンクは肩をビクリと振るわせる。
もし拒絶されたら、これが原因でギンガに嫌われるようなことになったら・・・。
不安や恐怖が胸の内で渦巻くチンクにギンガは抱擁で答えた。
「きゃっ!?ギ、ギンガ・・・?」
「フフッ・・・可愛い妹の頼みだもの、断るわけ無いじゃない」
ギンガの言葉にチンクが不思議そうな顔をする。
「妹?私が、ギンガの・・・?」
ナンバーズは本来開発された順にナンバーが割り振られそれが姉妹の中での序列となる。
尤もナンバーが後の者が先に完成したりと、明確な者では無いのもまた事実である。
「だって年齢、活動時間で言ったら私のほうが長いもの。それに甘えたかったんでしょ?お姉さまに・・・」
ギンガに耳もとで囁かれたチンクは白い肌を真っ赤にする。
「ハァ・・・」とため息をついた後、苦笑するチンク。
「本当に、ギンガには敵わないな」
「当然、私はあなたの姉なんですもの」
自慢げにそういった後、ギンガは聖母のように微笑みながら両腕を開く。
「さぁ、いらっしゃいチンク・・・」
「はい、姉さま・・・」
そう言いながら、チンクは姉の胸に飛び込んだ。


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Category: ナンバーズSS

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Comments

ギンガ×チンクの百合話、面白かったです

そういえば、レジアス中将の娘であるオーリス・ゲイズはあの事件の後、重要参考人として拘束されて以降出ていませんね。
それから八神はやての主治医の石田幸恵も・・
もしオーリスと石田幸恵がナンバーズスーツを着ていたら、面白い展開になっていたかもしれませんね。

Posted at 20:43:48 2017/04/01 by 匿名

Comments

Re: タイトルなし

ありがとうございます。
喜んでいただけて幸いです。
アイディアの方、できるか分かりませんが考えてみます。

Posted at 23:36:54 2017/04/03 by motoji

Comments

motojiさんの作品は今まで色々読ませて貰いましたが、これが一番好きかもです。洗脳や快楽で落すのもいいのですが、きちんと考えた上での本人の意思で、それが一般には悪とされる集団であってもそここそが己の帰るべき場所なのだと認識しかつての仲間と決別、そしてかつての仲間も、歪められたものではない強い決意と結論を見せたことを尊重して、永遠の別離を受け入れる。悲しくも強く美しく、輝かしい未来を感じさせるストーリーでした。

…正直素晴らしすぎて、百合シーンなくてもいいかなとか思っちゃったくらいですw
あ、でも勿論他のナンバーズシリーズも、洗脳とか快楽落も大好きです!

ぐだぐだと長文済みません。これからも、無理のない範囲で、創作頑張ってください。応援してます。

Posted at 05:13:44 2017/04/09 by

Comments

Re: タイトルなし

ありがとうございます。
ここまで過分な評価を頂き、大変感激しております。

そうですね、最終的にスバル達ナンバーズがハッピーエンドを迎えるのには変わりありませんがIF編はJS事件解決後ではなく当時が舞台なこともあり大分内容も結果も変わっています。
参考にした作品でそちらも自身の意思で仲間と袂を分かつストーリとなっていたのが最大の理由かもしれません。

今後も快楽洗脳と百合を盛り込み名がら続けていくのでどうか生温い目で見守って下さい。
改めまして応援ありがとうございます。

Posted at 21:10:22 2017/04/11 by motoji

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